on wings like eagles

日々ごはんを食べるように活字を食べて生きています。

『カラマーゾフの兄弟』読了

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学生時代に、それから社会人になってからも何度か挑戦してそのたびに挫折して投げ出したドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』。この度めでたく?約3ヶ月かかって読み終えることができました。

 

人類の文学史上、最高傑作との呼び声も高い本作品ですが、以前の僕にはなにがどう面白いのかさっぱりわからなかったです。一応文学部出身で、幼少の頃から読書好きを自認していたのですが、ロシア文学は苦手で、、、 登場人物の名前が長い上に愛称が数パターンあって、途中でだれが誰だかわからなくなったりするし、暗くて陰鬱な話が多いような気がするし、でも食わず嫌いはだめだろうと実際に何度か読んでみたんです。日本の数多の文豪は言うに及ばず、あの村上春樹氏も愛読したという作品、必ず何か途方もない魅力があるんだろうと...

 

でも、冒頭の修道院でのエピソードですぐ挫折しました。やたら意味のないような長ったらしい会話が続くし、当時は修道院でゾシマ長老が話し出すと、「ああ、宗教くさい抹香臭い話だな、もうダメダメ」って感じで拒否反応が出てしまって。さらに後で殺される兄弟の父親、フョードルのしゃべくりがもう癖が強すぎて読んでいられない、こんな感じで先に読み進められませんでした。

 

最後の挫折から15年以上経ったでしょうか。その間に僕はクリスチャンになりまして。その後、例えば映画の「ベン・ハー」をものすごく久しぶりにDVDで観たら、昔観たとき理解できなかったり、面白いともなんとも思わなかった描写にえらく感動するという経験をしました。それから岩波文庫に入っているヘンリク・シェンケーヴィッチの『クオ・ワディス』を読んで、これまた魂が揺さぶられるような感動を覚えたり(この小説は素晴らしいですよ。訳が素晴らしくて、もう神がかっています。)して、ああこれはクリスチャンになる前と後で、随分ものの見方が変わったんだなあという実感がありました。この間、亡くなられた日野原先生の本を読んでいたら、よど号ハイジャック事件でハイジャック犯に脅されつつ、死と隣り合わせの状況の中で日野原先生が読んでいた本が、この『カラマーゾフの兄弟』だったというくだりがあり、そうだ、今だったらひょっとしたら最後まで読めるかも、と思いKindle新潮文庫に入っている原卓也氏訳を購入、毎日少しずつ読み進めました。

 

本当に不思議なもので、あれだけ読み辛かったのに、今回はスラスラと、まではいかないのですが、ある程度楽しんで読むことができたのです。またある箇所では大変な感動を憶えもしました。

 

読了前の、あちこちから聞きかじった僕の『カラマーゾフの兄弟』に対する知識ですが、「父殺しの話である。その殺害についての推理小説及び法廷ものっぽい展開がある」、「スメルジャコフという癖のある人物が出てくる。(村上春樹さんのエッセイのタイトルか何かでも見た記憶があります。あと、スルメジャコフだと以前は思ってました。ちょっと美味しそうな名前だなと)」、「大審問官の章が有名で、なにやら凄いらしい」くらいでした。

 

読了後ですが、「アリョーシャ(カラマーゾフ兄弟の末っ子)の存在が癒やし」、「女心と秋の空」、「レビューなどであまり触れられていない、ガリラヤのカナの章が素晴らしすぎる」という感想を得ました。大審問官の章も含め、多くの重要箇所がほとんど登場人物の会話で構成されているのに対し、ガリラヤのカナの章はドストエフスキーによる情景描写と、アリョーシャの心情描写で構成されています。その素晴らしいこと、美しいこと。圧倒的な筆力ですよ。訳文ですらそう思えるのですから、ロシア語原文が理解できていたらどんなに良かったか、と思いますけどね。ちなみに「ガリラヤのカナ」はヨハネによる福音書に出てくる、主イエスが結婚式に参加して、水を葡萄酒に変えるという最初の奇跡を行われた有名なエピソードですね。このカナの婚礼の幻視が、自分の師の弔いの場にアリョーシャに現れ、死と生と、悲しみと喜びとが交錯し、全てが愛のうちに赦され、肯定される箇所です。僕はこの箇所の思想が、作品全体を覆っていると感じました。(しかしこの箇所、読めばわかるのですが、クリスチャンでなかったらそれほどの感動はなかったかもしれません。だからレビューにもほとんど出てこないのかも)

 

まあいずれにしても、あれこれ語るにはあまりに多くのものを内在している作品で、やっと一回読んだだけでは、軽く感想を述べる程度しかできません。そういう意味では聖書にも似ていますよね。一度読了することで、作品全体の構成やストーリーはしっかりとつかめましたので、また再読してみようと思います。つぎは読みやすいと定評のある光文社古典新訳文庫版で読んでみるつもりです。

 

どうでもいいのですが、ゾシマ長老は、僕の中ではスター・ウォーズヨーダ師のイメージです。